風色の椅子 第二楽章

小栗旬さんのファンブログ やや耽美主義

月が太陽を支配した日

雲ってきました。
aquaさんから教えていただきました(ありがとうございます)。
今夜の「オールナイトニッポン」、ゲストは山下智久くんだそうです。
これは楽しみですね。コーくん、ケンケン、久々の再会でしょうか(笑)。
さて朝は晴れていたのに、だんだん雲ってきて、
こちらでは部分日食になりますが、結局見られませんでした。
直接見るグラスは持っていなかったので、画用紙に穴を開けて、
待っていたんですけどね(笑)。
欠けた木漏れ日のような陽射し、見てみたかったです。
でもテレビで、ずーっと皆既日食のニュースを見てました。
欠け始める時間が、何時何分何秒まで分かるんだなあとか、
映像でもちょっとワクワクしたり、ドキドキしたり、とても神秘的ですよね。
ときどき夜空の月が、思いのほか大きく見えて、恐ろしくも美しく、
ゾクッとするときがありますが、でも目が離せなくて、
宇宙とか、自然とか、説明できない力が膨大にあるんだなあって思います。
そしてロマンチックでもあります。
その月を手に入れたいと言っていた人がいましたね。
では、皆既日食記念(え?笑)、
久しぶりに「カリギュラ」の台詞を書こうと思います。




カリギュラ           アルベール・カミュ 作  岩切正一郎 訳


カリギュラ「エリコン!」
エリコン 「なにか。」
カリギュラ「仕事ははかどっているか。」
エリコン 「仕事って何のです。」
カリギュラ「うん!・・・ 月だ!」
エリコン 「とどこおりなく。辛抱が肝心です。ときに、お話があるのですが。」
カリギュラ「辛抱ならたぶん大丈夫だ。だがそんなに時間がない。
       急いでやらなくちゃならないんだ、エリコン。」
エリコン 「約束どおり全力でやります。ですがその前に、
       重大なことをお耳に入れておきたいんです。」
カリギュラ(聞かなかったかのように)「手に入れたことは入れたんだ、彼女を。」
エリコン 「誰です、彼女って。」
カリギュラ「月だ。」
エリコン 「ああ、もちろんです。で、お命を狙う陰謀のことは、ご存知でしょうか。」
カリギュラ「完全に手に入れた。そりゃあ、たったの二回か三回だ。
       それはそうだが、とにかく、おれのものにした。」
エリコン 「いつになったら聞いてもらえるんでしょうか。」
カリギュラ「去年の夏だった。じっとみつめて、庭の柱の上にいる彼女を、
       愛撫していた。そうするうちに、彼女もやっと分わかってくれた。」
エリコン 「こんな芝居はやめましょう。カイユス。耳障りであろうと、
       私の役目はしゃべること。あなたには聞こえなくても、仕方ありません。」
カリギュラ(あいかわらず足に紅を塗りながら)「このペディキュアはだめだ。
       月に話を戻せば、八月の美しい夜だった。彼女は少し気取っていた。
       おれはもう寝ていた。月は始めのうち地平線のうえで血まみれだった。
       それから次第に軽やかに、すいすいと昇り始めた。
       昇ればのぼるほど明るくなった。
       星のさやぎでいっぱいの夜のまんなかで、
       彼女は乳色の水をたたえた湖のようになった。
       すると彼女はやってきた、暑さのなかを、優しく、軽やかに、裸で。
       部屋の敷居を越えると、堂々とゆっくり、おれのベッドにやってきた、
       そこに音もなくすべりこみ、ほほえみと輝きでおれを浸した。
       ・・・まったく、このペディキュアは役にたたん。
       わかるだろう、エリコン、自慢ではないがおれはあれを手に入れた。」
エリコン 「話を聞いてもらえませんか。危険が迫っています。」
カリギュラ「おれはただ月が欲しいんだ、エリコン。何がおれを殺すのか、
       そんなことは先刻承知だ。おれはまだ使い切っていない、
       おれを生かすものをな。だからおれは月が欲しい。
       月をもってこないうちは、姿を見せるなよ。」
エリコン 「ではわたしは義務を果たし、言うべきことを言いましょう。
       あなたを狙う陰謀が仕組まれました。ケレアが指揮をとっています。
       このタブレットを押さえました。肝心なことを教えてくれるでしょう。
       ここに置いていきます。」


カリギュラ「どこに行く。」
エリコン 「月を探しに。」




このシーンはとても好きです。
台詞が一編の詩のように美しくて、ふたりのやりとりが切なく、
ひたすらカリギュラのことだけを思うエリコンと、
すべてわかっていて、なおも月の話を夢のように聞かせるカリギュラ
また小栗くんにこのような美しい台詞を語ってほしいですね。
そしてカリギュラは今も月を追い求めているのでしょうか。
ほんのひとときでも、月が太陽を支配した今日の日に寄せて。