風色の椅子 第二楽章

小栗旬さんのファンブログ やや耽美主義

カリギュラ 美しい台詞たち 第一幕 第二幕

毎日暑いですね。
由貴さんから教えていただきました(ありがとうございます)。
蜷川実花さんの日記より、小栗くんとのお仕事について書かれています。
http://www.ninamika.com/ja/diary/index.asp
前はモノクロだったので、今度はまた実花さん特有の色で、撮ってもらいたいですね。
「2時っチャオ!」は、5大都市舞台挨拶の様子が映って、
携帯で写真を取り合っていたり、ゴルフの素振りをしていたり、
松本くんのキラキラした衣装が触れるたびに、「マジ、イタイ」って、
言っているところが映ったりしました(笑)。
真央ちゃんは、昨日、aikoさんと沖縄の舞台挨拶へも行ったんですね。
本当に、皆さん、お疲れさまでした!という感じでした。
さて先週、「カリギュラ」のDVDが届いたということで、
前からやってみたいと思っていたのですが、これから岩切さんの翻訳本が、
出そうにないですし、その美しい台詞を少し書き起こしてみたいと思います。
好きな台詞、印象的な台詞、心にひっかかった台詞。
もっと書き出したいところですが、ちょっと体力に限界があり(笑)、
でも書き出してみると、改めて凄い戯曲だなあって思います。
そして感情を入れにくい言葉が並んでいますよね。
でもあれだけ伝わってきたというのが、素晴らしいなあって思います。
詩的で美しい台詞、繊細でいながら力強さもありますし、
パンフレットを読んでいたら、稽古を見ながら、岩切さんが手直ししていたそうで、
そうやって進化した台詞だったんですね。
まず深い夜を思わせる濃紺のDISC 1 から、第一幕と第二幕。
聞きながら、書いているので、間違ったところもあるかと思いますが、
だいたいこんな感じと思っていただいて、今まで、書き出してあったものは加えました。
読みたい方だけお願いします。もう私の覚書ですね(笑)。












カリギュラ   第一幕 第二幕           アルベール・カミュ
                                岩切正一郎 翻訳
 

貴族「まだ何も。」


ケレア「もし虫の居所が悪くしてお戻りになったら。」
貴族「いいですか。あの方はまだ子供です。道理を言い聞かせてさしあげましょう。」


エリコン「こんにちは。カイウス。」
カリギュラ「やあ、エリコン。」


エリコン「何です?欲しかったものって。」
カリギュラ「月だ。」
エリコン「え?」
カリギュラ「月が欲しかった。」


カリギュラ「この男は狂っている。そう考えているんじゃないのか。」
エリコン「知ってるでしょ。俺は考えたりなんかしません。
      頭が良すぎてそんなことをする気にはならないのです。」


カリギュラ「この世のものではない何かが必要なんだ。」


カリギュラ「だが、愛とは何だ?取るに足りないものだ。」


カリギュラ「俺のまわりのものは何もかも欺瞞だ。
       俺は人が真実の中に生きることを望む。
       そうやって生きるように俺がさせてやる。その方法ならちゃんとある。
       俺はみんなに欠けているものを知っているんだ。エリコン。」


カリギュラ「すまないが、今後は俺を手伝ってほしい。」
エリコン「断る理由はありません。カイウス。」


エリコン「何を手伝ってほしいのです。」
カリギュラ「不可能なこと。」
エリコン「出来るだけのことはしましょう。」


エリコン「セゾニア、カイウスは理想主義者だ。みんな知ってる。
      つまりあの人はまだ何もお分かりじゃないってことだ。俺は理解している。
      だからなんにもかかわらない。だけど、いったんカイウスが理解し始めたら、
      俺とは逆にあの人はあの善良な可愛い心で、
      なんにでも手をだすことが出来る。ひどく高くつくでしょうね。」


セゾニア「カリギュラは、ローマ中から見られているのよ。
      なのにあの人は、自分の考えしか目に入っていない。」


セゾニア「あの人が好きなのね。」
シピオン「好きです。僕に優しくしてくれました。励ましてくれました。
      あの人の言葉のいつくかは今でもそらんじることができます。」


カリギュラ「貴族の諸君はさがってくれ。」


カリギュラ「処刑の順番にはなんの重要性もない。あるいはむしろその順番は、
       どれも同じく重要で、そのために重要性はないも同然になる。」


カリギュラ「市民にとって必要不可欠な日々の食料品に間接税を、
       もぐりこませるなんていうやり方は、市民から直接、税を盗むのと、
       同じくらいに、不道徳ではないか。統治するとは、盗むこと。
       誰でもそれを知っている。だがやり方がある。
       私はあけすけなかたちで盗むことにした。
       ちまちました銭稼ぎとはおさらばだ。」


カリギュラ「金がすべてだと思っている以上、人の命など何でもない。
       そうみなすべきではないのか。」


カリギュラ「権力は不可能なものにチャンスを与える。
       今日を境に我が自由にもはや限界はない。」


カリギュラ「罪なき嘘などというものはない。そしておまえたちの嘘は、
       人間と事物に重みを与える嘘だ。おまえたちを許せないのはそこだ。」
ケレア「たとえそうであったても、この世で生きていこうと思うなら、
     この世を弁護するのは当然ではありませんか。」


カリギュラ「俺がおまえたちを憎むのはお前たちが自由ではないからだ。
       このローマ帝国にあって、自由なのは俺ひとりだ。
       喜べ。ついにおまえたちのもとへ自由を教えてくれる皇帝がやってきた。」


カリギュラ「男は愛とは別の理由で泣く。」


カリギュラ「ほっといてくれ。セゾニア!・・・そばにいてくれ。」
セゾニア「いうとおりにする。この年になると人生なんて、
      それほどいいもんじゃなってわかってる。
      でもこの世に悪があるのに、わざわざそれを増やすことはないでしょ。」


セゾニア「眠らなくちゃだめよ。ぐっすり眠るの。身をまかせきって。
      何も考えてはだめ。私があなたの眠りを見張っていてあげるわ。
      あなたが目を覚ましたとき、世界はまたもとの味を取り戻している。」


カリギュラ「しっかりした力など俺にとって何になる。
       万物のありようを変えることができないのなら、太陽を東に沈ませ、
       苦しみを減らし、人を不死にする、それができないのなら、
       驚くべきこの権力がなんになる。」


カリギュラ「俺はついに生き始める。生きるとはセゾニア、愛することの対極だ。」


貴族「もう三年も!」


ケレア「彼は自分の権力をもっと高尚で致命的な情念のために役立てている。
     我々の心の一番深いところを脅かしている。ひとりの男が権力を、
     限りなく所有することは、今までにもあっただろう。
     だが限りなく欲しいままにそれを使い、人間を世界を否定するに至る。
     こんなことは初めてだ。あの人の恐ろしいのはそこだ。」


ケレア「人は理由なくして生きることはできない。」


カリギュラ「恐怖を前にしてすべては消えうせた。恐怖、セゾニア。
       混じりけのない外連味のない美しいこの感情。
       その気高さをはらわたからひいている稀な感情のひとつだ。」


ケレア「しかしカリギュラは仰っていました。
     深い情熱はいつもなにかしらの残酷さをともなっている。」


カリギュラ「聞こえないのか!明日から飢きんだ。飢きんとはなんだ。
       誰でもそれを知っている。それは災いだ。明日から災いがある。
       気が向いたときに私がそれを止める。
       ようするに自分が自由だと証明する手段を私はそれほど持っていない。
       人は他人の犠牲の上に自由を獲得する。」


カリギュラ「私がおまえたちの何をもっとも愛しているのか。忍耐だ。」


カリギュラ「かまわん。同じことだ。少し早いか、少し遅いかだ。」


セゾニア「私の言いたい言葉は、難しいけれど、明白な言葉。
      本当に聞いてもらえたなら、
      この世でたったひとつの決定的な革命を完成させる言葉よ。」


エリコン「日々は過ぎ行く。急いで飯を食え。俺が知っているのはそんなこった。
      それとか、おまえさんならカリギュラを殺せるとかな。
      奴さん、それを悪くは思わんだろ。」


カリギュラ「やあ、君か。久しぶりだな。どうしてる?今も書いているのか。
       最近の作品があったら、見せてほしいな。」
シピオン「詩を書きました。陛下。」
カリギュラ「何についての。」
シピオン「何というか、陛下。自然についてだと思います。」


カリギュラ「君の詩を聞かせてくれ」
シピオン「そういわれても無理です。陛下。」
カリギュラ「何故。」
シピオン「持ち合わせていません。」
カリギュラ「思い出せないのか。」
シピオン「思い出せません。」
カリギュラ「じゃあ、せめて内容だけでも聞かせてくれ。」
シピオン「内容は。」
カリギュラ「何だ。」
シピオン「いいえ、わかりません!」
カリギュラ「がんばってみろ。」
シピオン「大地の調和と。」
カリギュラ「大地と足との。」
シピオン「ええ、そんな感じの。」
カリギュラ「続けろ。」
シピオン「ローマの丘。そこに夕暮れが連れてくる、
      つかの間の茫然とするような静まり。」
カリギュラ「緑の空に鳴き騒ぐつばめたち。」
シピオン「えぇ、そうです。」
カリギュラ「そして。」
シピオン「なおも金色に満ちた空が、にわかによろめくと、一瞬のうちに面差しを変え、
      輝く星でいっぱいの顔を僕らに見せる。あの微妙なひととき。」
カリギュラ「大地から夜へとのぼっていく、煙と樹々と水の海。」
シピオン「かまびすしい蝉の声。暑さ、収まっていき、
      最後の荷車のガラガラと転がる音。農夫たちの声。」
カリギュラ「そして、影に浸されゆく道は、乳香とオリーブの樹々を縫え。」
シピオン「そう、そうです、そのとおりです!どうやってこれを。」
カリギュラ「わからない。たぶん君と俺が同じ真実を愛しているからだ。」
シピオン「ああ、もうどうでもいい。僕の中で何もかもが愛の姿になっていく。」


カリギュラ「俺の孤独は、存在に毒された孤独だ。この孤独の代わりに、
       せめて本当の孤独を、一本の木の静けさと震えを味わえたら。
       孤独。いいや、シピオン。孤独は歯軋りでいっぱいだ。
       孤独全体が、物音と、失われたどよめきで鳴り響いている。」


シピオン「どんな人も、人生のなかにひとつの優しさを持っています。
      それに助けられて、人は続けるんです。
      自分はあまりにもすり切れてしまったと感じるとき、
      人はその優しさのほうを振り向きます。」


シピオン「ではあなたの人生の中に、そのようなものはひとつもないのですか。
      こみあげてくる涙やひっそりとした隠れ家を。」
カリギュラ「あることはある。」
シピオン「何です。」
カリギュラ「軽蔑だ。」