風色の椅子 第二楽章

小栗旬さんのファンブログ やや耽美主義

カリギュラ 美しい台詞たち 第三幕 第四幕

真夏の日差しです。
カリギュラ」はあまり夏向きではないなと思いつつ(笑)、
今日も、昨日に引き続き、「カリギュラ」のDVDより、
少し台詞を書き起こしてみたいと思います。
今日は、鮮やかな月の光を思わせる黄色のDISC 2 から。
第三幕、第四幕。
こうやって台詞を書き出していくと、こういう意味だったのかって、
改めて思うこともあるのですが、一番最初に観たあの衝撃を思い出したりもします。
降りそそぐ感情に、埋もれてしまいそうな、
涙を止めることさえ忘れてしまい、ただただそのお芝居の凄さに圧倒された、
ああいう感情と出会えたことが、驚きと喜びでいっぱいでした。
破滅に向かう哀しい物語なのですが、どこかカタルシスがあり、
そして本当に、小栗くんのカリギュラが素晴らしかった。
誇り高く、かつ色っぽく、美しく切なく、知的で迫力があり、
彼自身を肯定してしまい、惹かれてしまう、
身を切るような純粋さを持った、繊細で愛しい人でした。
いい演劇に出会えて幸せでした。カリギュラに携わったすべての方々に感謝です。
では、その台詞を噛み締めるように書いていきますね。
聞きながら、書いているので、間違ったところもあるかと思いますが、
だいたいこんな感じと思っていただいて、今まで、書き出してあったものは加えました。
読みたい方だけお願いします。













カリギュラ   第三幕 第四幕             アルベール・カミュ
                                 岩切正一郎 翻訳


セゾニア(礼拝の言葉)「この世に真実はないというこの世の真実を…」


カリギュラ「人は運命を理解できない。だから俺は自分を運命に仕立て上げた。」


カリギュラ「エリコン。」
エリコン「何です。」
カリギュラ「仕事ははかどっているか。」
エリコン「仕事って何のことです。」
カリギュラ「ん。月だ。」
エリコン「滞りなく、辛抱が肝心です。ときにお話があるのですが。」


カリギュラ「去年の夏だった。じっとみつめて、庭の柱の上にいる彼女を愛撫した。
       そうするうちに彼女もやっとわかってくれた。」
エリコン「こんな芝居は止めましょう。カイウス。耳ざわりであろうと私の役目は、
      喋ること。あなたには聞こえなくても仕方ありません。」


カリギュラ「8月の美しい夜だった。彼女は少し気取っていた。俺はもう寝ていた。
       月ははじめのうち、地平線の上で血まみれだった。
       それからしだいに軽やかに、すいすいと昇りはじめた。
       昇れば昇るほど明るくなった。星のさやぎでいっぱいの夜のまん中に、
       彼女は乳色の水をたたえる湖のようになった。」


カリギュラ「どこへ行く。」
エリコン「月を探しに。」


カリギュラ「同じ魂と誇り高さを持つふたりの男が、生きているうちに少なくとも一度、
       心の底から話をすることは可能だと思うか。」


ケレア「それはあなたの中に愛すべきものが何もないからです。カイウス。
     愛は命令されるものではありません。それに私はあなたのことを、
     わかりすぎてもいるし、その上、人は自分の中にいろいろとある顔のうち、
     できれば仮面をつけて隠しておきたいと思う顔と、
     同じ顔をしている人間を愛することはできません。」
カリギュラ「どうして俺を憎む。」
ケレア「その点は間違っています。カイウス。私は憎んではいません。
     あなたを有害で残酷でエゴイストの虚栄の人と判断してはいます。
     けれども憎むことはできません。なぜならあなたは幸福ではない、
     そう私は思っているからです。あなたを軽蔑することもできません。
     なぜならあなたは卑怯な方ではないと知っているからです。」
カリギュラ「ではどうして俺を殺したい。」
ケレア「今、申し上げました。あなたを有害だと判断するからです。
     私には安全への好みと欲求があります。おおかたの人間は、
     私と同じ考えです。世にも奇妙な考えが一瞬にして現実の中に入ってくる、
     そんな世界に生きることは誰にもできません。
     しかもたいていの場合その考えは、ナイフが心臓に入ってくるように、
     入ってくるのです。私だってそんな世界に生きることはできません。
     私は自分自身をきちんと掌握していたいのです。」
カリギュラ「安全と論理は両立しない。」


カリギュラ「おまえは頭がいい。頭の良さは高くつくか、それとも自らを否認するか、
       そのどちらかだ。俺は代償を払う。どうしておまえは否認せず、
       代償を払おうとしない。」
ケレア「どうしてかといえば、生きたいからです。幸福でありたいからです。
     不条理をありとあらゆる結末へ推し進めるのは、人は生きることもできず、
     幸福にもなりえません。」


カリギュラ「わかっている。ケレア。おまえは健全な男だ。
       常軌を逸したことは何ひとつ望もうとしない。おまえは生きていたい。
       そして幸福でありたい。単にそれだけだ。」


カリギュラ「いいか、おまえは陰謀を企んだ。よく見ろ、こいつは融ける。
       この証拠が消えるにつき、無罪の夜明けがおまえの顔に広がっていく。
       清い素晴らしい額をしているな。ケレア。実に美しい。
       罪のない人間。実に美しい。俺の力を賛美しろ。
       たとえ神々でも罰をくださないうちは罪の許しを与えることはできない。
       だがおまえの皇帝はおまえの罪を許し、さらには勇気づけるために、
       炎がたったひとつあればいい。
       続けるがいい。俺に聞かせた素晴らしい論法を最後までやりとげるんだ。
       おまえの皇帝は休息を待っている。
       それが彼にとって幸福になるやり方だ。」


シピオン「でもあの人に似たものが僕の中にあるのです。
      同じ火が僕たちの心を焼いています。」


シピオン「もう誰もいない。正しい人間など。僕にはもう誰もいない!」
ケレア「あいつのせいで君はそうなった。そのために私はあいつが一層憎い。」
シピオン「ええ。あの人から教わりました。なにもかも要求することを。」
ケレア「違うんだ。シピオン。あいつは君を絶望させた。
     若い魂を絶望させるのは犯罪だ。
     これまでにあいつが犯したすべての罪を超える罪だ。
     私が逆上してあいつを殺すには、それで充分だ。」


ケレア「あの男は考えることを強要する。みんなに無理やり考えさせる。
     安全ではないということが人を考えさせるんだ。」


エリコン「あんたらにはカイウスに指一本触れさせはしないぞ。
      たとえあの人の方でそれを望んでいるにしてもだ。」


エリコン「そしてわかったんだ。あんたたちは卑しい顔をしていて、
      匂いも貧相な匂いだってことがな。苦しんだことも危険をおかしたことも、
      一度としてない人間に特有の薄っぺらな匂いだ。」


エリコン「美徳の小売店を経営しているあんたたちが、
      若い娘が恋を夢見るように、安全を夢見てる。」


エリコン「そんなあんたたちが数え切れないほど苦しんできた人を、
      毎日千の新しい傷口から血を流している人を、おこがましくも、
      裁こうとはな。殺るならまず俺を殺ってからにしろ。肝に銘じておけ。
      奴隷をさげすめばがいい、ケレア。
      この奴隷はな。あんたの美徳より上にいる。というのはな。
      こいつは、今もあの哀れなご主人を愛することが出来るからだ。
      あんたたちの立派な嘘や、不実な口から守って差し上げるからだ。」


カリギュラ「やがて運命の道がミモザで覆われる。女たちは軽やかな衣装を纏い、
       はるかなる爽やかな空。カシュス、人生が微笑んでいる!」


カリギュラ「そなたが充分に人生を愛していたなら、
       これほど不用意にそれを賭けたりはしなかっただろうな。」


セゾニア「でも魂をこれっぱかりも持たない連中はみんなそうだけど、
      あんたたちは魂のありすぎる人間に我慢できない。
      魂がありすぎる!それが厄介なのよ。そうじゃなくて。
      だからそれを人間は病気と呼ぶ。
      知ったかぶりの連中が正しいってことになって、そいつらは満足する。
      あなたは、一度でも人を愛せたことがあるの?ケレア。」


カリギュラ「他のものたちは権力がないから創作する。
       おれには作品など必要ない。生きるんだ。」


シピオン「幸福を追って、人々は清らかに、陽光は空にさらさらと流れ、
      かけがえのない野蛮な宴。希望なきわが錯乱。」
カリギュラ「もうよい。まだ若いのに、君は死の本当の教訓を知っている。」
シピオン「まだ若いのに、私は父を亡くしました。」


カリギュラ「詩人は私の敵だ!もう会うことはない。整列して退場。
       私の前を行進していけ。そのさいタブレットを舐め、
       そこに書かれた破廉恥のあとを消せ。」


シピオン「カイウス、こんなことをしても無意味です。僕は知っています。
      あなたはすでに選んでいます。」
カリギュラ「ほっといてくれ。」
シピオン「そうしましょう。僕はあなたを理解したような気がするんです。
      あなたにも、あなたとそっくりな僕にも、もう出口はありません。
      僕は遠くへ出発します。このこと全ての理由を探しに。
      お別れです。愛しいカイウス。全てが終わったとき、
      忘れないでいてください。僕はあなたを愛しました。」


セゾニア「せめて1分間だけでいい。自分をゆだねて、
      自由に生きてみるつもりはないの。」
カリギュラ「何年も前から、自由に生きる訓練をしている。」
セゾニア「そういう意味じゃないの。私の言うことをよく聞いて。純粋な心で生き、
      そして愛する。それはとてもいいことかもしれないのよ。」


セゾニア「いらっしゃい。私のそばに。横になって、頭を膝に乗せて。」


カリギュラ「愛の大盤振る舞いじゃないか。俺たちにはこんな習慣はなかった。」


セゾニア「わたしはもう年をとったし、すぐに醜くなる。
      でもあなたを気遣っているうちに心がこんなに広くなったわ。」


カリギュラ「おまえはやがて年老いる。その年寄り女のために、
       俺は一種の恥ずかしい優しさを心ならずも覚えてしまう。」
セゾニア「私をそばに置いてくれるというの!」
カリギュラ「わからない!俺にはこの上なく恐ろしい意識だけが、
       この恥ずかしい優しさは、人生が俺にたったひとつ与えてくれた、
       純粋な気持ちという、意識だ。」


カリギュラ「最後の証人は、消えた方がいいんじゃないのか。」
セゾニア「もういいの。嬉しいわ。あなたが言ってくれたこと。
      でもどうしてこの幸福を分かち合えないのかしら、あなたと。」
カリギュラ「俺が幸福ではないと誰が言った。」
セゾニア「幸福は惜しみなく与えるもの。破壊を糧にはしないわ。」
カリギュラ「じゃあ、ニ種類の幸福があるってわけだ。俺は殺人者の幸福を選んだ。
       それは、今、俺は幸福だからだ。俺はかつて苦悩の極みに達したと、
       思ったときがある。ところがどうだ。もっと先へ行ける。
       この国の果てにあるのは、不毛な素晴らしい幸福だ。
       俺を見ろ。セゾニア。何年もの間、ローマ全体がドリュジラの名を、
       口にするのを避けていた。そこを考えると笑ってしまう。
       ローマは何年もの間、間違っていた。愛があるだけでは充分ではない。
       当時、俺が理解したのはそのこと。今でもおまえをみながら、
       理解するのはそのことだ。ひとりの人間を愛する。
       それは一緒に年をとっていくのを受け入れること。
       俺にはこの愛ができない。年老いたドリュジラは、
       死んだドリュジラよりも悪い。愛するものが一日で死ぬから人は苦しむ。
       そう人は思っているが、人間の本当の苦しみは、
       そんなに軽薄なものではない。
       本当の苦しみは苦悩もまた永続しないという事実に気付くことだ。」


カリギュラ「セゾニア。おまえは実に奇妙な悲劇に最後までつきあってくれた。
       いまや、おまえのために幕を下ろすときだ。」
セゾニア「これが幸福。この恐ろしい自由が。」
カリギュラ「そうだ。セゾニア!この自由がなかったら、
       俺は満ち足りた男になっていただろう。この自由のおかげで、
       俺は神のように見通す孤独な男の目を獲得した。
       俺は生き、俺は殺し、破壊者の狂乱した権力を行使する。
       それを前にしては、創造者の権力など猿芝居に見える。
       幸福であるとはこういうことだ。幸福とはこれだ。
       この耐え難い開放感、あらゆるものへの軽蔑、俺のまわりの血、
       憎しみ、自分の人生を眼下に支配している男の比類なき孤立、
       罰を受けない暗殺者の常軌を逸した喜び。
       人間の命を砕く情け容赦のないこの論理。
       おまえの命を砕く論理でもあるセゾニア。
       そしてついに、欲しくてたまらない永遠の孤独を完成させるんだ!」
セゾニア「カイウス。」
カリギュラ「優しさはごめんだ。けりをつけなくてはならない。
       もう時間がない・・・愛しいセゾニア!」


カリギュラカリギュラ!おまえも、おまえも罪がある!そうだろう、
       人より多いか、少ないか。それだけの違いだ。
       だが、裁判官のいないこの世で、誰があえて俺を裁く?
       だれもかれもが罪人の世界で。・・・おまえはよくわかっている。
       エリコンは来てない。俺には月が手に入らない。苦しい。
       本当であること、終りまで行かなければならないということ。
       苦しいのは、終わるのが、完成するのが怖いからだ。」


カリギュラ「俺は心の静まるあの大きな空虚を、もう一度見つけるんだ。
       なにもかも複雑に見える。だがなにもかも単純だ。
       もし俺が月を手に入れていたら、もし愛だけで充分だったら、
       すべては変わっているだろう。この渇きをどこで癒せばいい。
       どんな心、どんな神が、湖の深さをたたえているのか。
       この世には何も、俺にみあうものは何もない。
       それでも、俺は知っている。おまえもだ。
       不可能がありさえすればそれで充分だ。
       不可能!俺はそれを世界の果てまで探しにいった、俺自身の果てまで。
       俺は自分の両手を差し出した。両手を差し出す、
       するとおまえに会う!いつもおまえだ、俺の前にいる。
       そして俺はおまえに対して憎しみでいっぱいになる。
       俺は行くべき道を行かなかった。俺は何ものにも到達しない。
       俺の自由は良い自由ではない。
       エリコン!エリコン!何もない!まだ何もない!
       夜が重い。エリコンはもう来ない。俺たちは永遠に罪人だ。
       夜は人間の苦悩のように重い。」


エリコン「用心してください、カイウス!用心して・・・」


カリギュラ「歴史の中に入るんだ、カリギュラ!歴史の中に!」


カリギュラ「俺はまだ生きている!」