風色の椅子 第二楽章

小栗旬さんのファンブログ やや耽美主義

俳優にとって洗礼のようなものかもしれません

晴れていますが、風が強いです。
さて「ムサシ」がさい芸で上演されるということで、
劇場を思い出すために、より客席がよくわかる「お気に召すまま」初演のDVDを、
観ました(いろいろ理由をつけて観たいだけなんですが・笑)。
やっぱり老僕アダムとオーランドーのシーンがいいなあとか、
鋼太郎さんとはこのときからずっとお世話になっているなあとか、
正装のオーランドーは何度見ても、美しくて、
そのたびに惚れ惚れするなあとか(笑)。
さいたま芸術劇場はとても素敵な劇場ですよね。
素敵といえば、「カリギュラ」のシアター・コクーンも、
「偶然の音楽」の世田谷パブリックシアターも素敵でした。
そうそう、小栗くんが「蝶々夫人」の語りをした、
サントリー・ホールもここがサントリー・ホールなんだ〜って、
ちょっと感激しました。
ところで「お気に召すまま」「タイタス・アンドロニカス」
「間違いの喜劇」、すべて通路でのお芝居があったのですが、
「ムサシ」はどうでしょうね。
「お気に召すまま」再演のときは、これはシアター・コクーンでしたが、
その通路で、ちょうどオーランドーが、小さな花束を持って、
花びらを整えるところが、目の前で、演じられて、
たくさんの人が感嘆のため息をつくと、こういう音になるのねという、
胸躍るどよめきを初めて聞きました(笑)。
それほど素敵だったんですよ。
その花束を、愛しそうに嬉しそうに整えている、
可愛らしい美しいオーランドーでした。
それでは、その花束を渡すところから、台詞を少し。
そんな思いで会いに行ったのに、ちょっと冷たいロザリンドなんです(笑)。


ロザリンド  なんだ、あなたなの、オーランドー、
         いままでどこほっつき歩いてたの?それでも恋人?
         あと一度でもこんな目に合わせるなら、
         二度とあたしの前にあらわれないで。
オーランドー 美しいロザリンド、約束には一時間と遅れちゃいない。
ロザリンド  恋人との約束に一時間も遅れる?
         恋のことで一分の千分の一のそのまた千分の一でも、
         約束を破るような男は、キューピットに、
         ちょっと肩を叩かれただけなんだ。
         心臓はかすり傷ひとつ負っちゃいない、保証してもいいわ。
オーランドー ごめん、ねえ。ロザリンド。


でも結局ロザリンドの機嫌はなおり、こんな会話に。


ロザリンド  さあ、あたしを口説いて、口説いて、今のあたしはお祭り気分、
         すぐにいいわと答えるわ。さあ、あたしにどんなことが言いたいの、
         あたしがあなたのほんとのほんとのロザリンドだとしたら?
オーランドー 何か言う前にキスしたい。
ロザリンド  だめ、まず何か言わなきゃ、何も言うことがなくなったら、
         それをチャンスにキスしてよろしい。
         雄弁の大家は言葉につまると唾を吐く、
         恋する男も話の種が尽きたら、そんなことになったら困るけど、
         キスをするのが一番きれいな切り抜け方よ。
オーランドー キスを拒まれたら?
ロザリンド  そうやってあなたに嘆願させる気なの、
         そこにまた新しい恋の種が生まれる。
オーランドー 大好きな人の前で言葉につまる男なんているのかな?
ロザリンド  あたしがあなたの恋人なら、つまってほしい。
         さもないと淑やかなだけで頭が悪いと思えてくる。
オーランドー え、口説き文句につまったほうがいいの?
ロザリンド  文句はいや、でも口説かれるだけじゃつまらない。
         あたし、あなたのロザリンドじゃなかったかしら?
オーランドー そう呼べるだけでちょっとは嬉しいな。
         あの人のことを話していられるから。


「ムサシ」はきっとこんな甘いやりとりはないですよね(笑)。
でも井上さんは、韻を踏む台詞はありそうですね。
先日「ムサシ」の記事が載った朝日新聞に、吉田鋼太郎さんが、
「日本の俳優として、井上さんの戯曲をきちんと演じてからでないと、
 次の世代の劇作家の作品に入っていけないような気がするんです。
 俳優にとって、洗礼のようなものかもしれません。」と仰っていて、
若くして、そういう機会に恵まれた小栗くんは、本当に素晴らしいと思うし、
その洗礼を受けて、またどんな姿を見せてくれるのでしょう。
初めて初演の「お気に召すまま」を観たとき、
小栗くんのそのたぐい稀な美しさとか、いろいろ感激しましたが、
あのシェイクスピアの台詞を若い彼の口から聞けたことも、
とても感激したひとつでした。
今度は「言葉の天才」と言われる井上さんの台詞を、
小栗くんの口から聞けること、とてもとても楽しみです。