曇り空です。
あのう、また「カリギュラ」のことを書きたいと思います(笑)。
やっぱり台詞がすごく魅力的なんですよね。
岩切さんの訳が、とても現代にも合っていて、かつ詩的で美しく、
ドラマチックで、素晴らしいと思います。
岩切さん、「ひばり」の舞台も訳されていますが、
私はTVで「ひばり」は観たのですが、そのときも台詞が素敵だなあって思いました。
そして「カリギュラ」の台詞が、
小栗くんの演じる「カリギュラ」に合っている台詞ですよね。
大仰ではなく、若者らしく、でも難解で、シャープで、ロマンチックで、
「カリギュラ」のカリスマ性も、繊細な弱さも甘さもよく現れていて、
そしてときに、はっとするほど深くて、考えさせられて、
エリコンとのシーン、シピオンとのシーン、ケレアとのシーン、セゾニアとのシーン、
それぞれがとても心に迫ってきます。
「オールナイトニッポン」で小栗くんが、舞台で声が出るようになった話をしていて、
「この間のカリギュラで、やっぱりちゃんとその人間を、
自分の中に、ちゃんと腑に落とせるようになったときには、
出さなきゃいけないんじゃなくて、出るようになるんだなっていうのは感じました」と、
言っていましたが、あの難解な「カリギュラ」を、咀嚼して、理解して、
演じていたからこそ、私たちにもしっかり伝わってきましたよね。
それは彼のあのスラリとした長身の、身体全体から伝わってきました。
カツカツとした歩き方、踵を返したとき揺れる長い裾、薄ら笑い、罵倒、涙。
そしてその声の表情。切なくなるほど、心の奥深くへ届きました。
カリギュラは、その心の悲しみの湖の上に、全てを構築しようとした。
彼を見ていて、ずっと悲しいのはそのためです。
突き詰めた論理も、真理の追求も、そして青年特有の苦悩、繊細さ、純粋さ。
それらは不安定で重すぎて、そして沈んでしまったのではないだろうか。
そんな彼を命懸けで愛してくれて、助けようとして、
そしてともに沈むこともいとわなかった人たち。
あのシピオンの別れの場面から、いつも涙が止まらなくなります。
セゾニアを殺した後、鏡に向かって自分に問いかけるところは、
胸締め付けられるというより、身体中が締め付けられる感じで、
うずくまるとそれは愛しく、そして殺される場面は、哀しいほど美しかった。
では、また台詞を書き出していきたいと思います。聞いて書いていますので、
正確ではない部分もあると思いますが、最後へ向かっていくときのものです。
シピオン「カイウス、こんなことをしても無意味です。僕は知っています。
あなたはすでに選んでいます」
カイウス「ほっといてくれ」
シピオン「そうしましょう。僕はあなたを理解したような気がするんです。
あなたにも、あなたとそっくりな僕にも、もう出口はありません。
僕は遠くへ出発します。このこと全ての理由を探しに。
お別れです。愛しいカイウス。全てが終わったとき、忘れないでいてください。
僕はあなたを愛しました」
セゾニア「せめて1分間だけでいい。
自分をゆだねて、自由に生きてみるつもりはないの」
カイウス「何年も前から、自由に生きる訓練をしている」
セゾニア「そういう意味じゃないの。私の言うことをよく聞いて。
純粋な心で生き、そして愛する。それはとてもいいことかもしれないのよ」
カイウス「おまえはやがて年老いる。その年寄り女のために、
俺は一種の恥ずかしい優しさを心ならずも覚えてしまう」
セゾニア「私をそばに置いてくれるというの!」
カイウス「わからない!俺にはこの上なく恐ろしい意識だけが、
この恥ずかしい優しさは、
人生が俺にたったひとつ与えてくれた純粋な気持ちという、意識だ」
カイウス「最後の証人は、消えた方がいいんじゃないのか」
セゾニア「もういいの。嬉しいわ。あなたが言ってくれたこと。
でもどうしてこの幸福を分かち合えないのかしら、あなたと」
カイウス「俺が幸福ではないと誰が言った」
セゾニア「幸福は惜しみなく与えるもの。破壊を糧にはしないわ」
カイウス「じゃあ、ニ種類の幸福があるってわけだ。俺は殺人者の幸福を選んだ。
それは、今、俺は幸福だからだ。俺はかつて苦悩の極みに達したと、
思ったときがある。ところがどうだ。もっと先へ行ける。
この国の果てにあるのは、不毛な素晴らしい幸福だ。俺を見ろ。セゾニア」
カイウス「セゾニア。おまえは実に奇妙な悲劇に最後までつきあってくれた。
いまや、おまえのために幕を下ろすときだ」
セゾニア「これが幸福。この恐ろしい自由が」
カイウス「そうだ。セゾニア!この自由がなかったら、俺は満ち足りた男に、
なっていただろう。この自由のおかげで、俺は神のように見通す、
孤独な男の目を獲得した。俺は生き、俺は殺し、破壊者の狂乱した権力を、
行使する。それを前にしては、創造者の権力など猿芝居に見える。
幸福であるとはこういうことだ。幸福とはこれだ。この耐え難い開放感、
あらゆるものへの軽蔑、俺のまわりの血、憎しみ、
自分の人生を眼下に支配している男の比類なき孤立、
罰を受けない暗殺者の常軌を逸した喜び。
人間の命を砕く情け容赦のないこの論理。
おまえの命を砕く論理でもあるセゾニア。
そしてついに、欲しくてたまらない永遠の孤独を完成させるんだ!」
セゾニア「カイウス」
カイウス「優しさはごめんだ。けりをつけなくてはならない。
もう時間がない・・・愛しいセゾニア!」
カイウス「カリギュラ!おまえも、おまえも罪がある!
そうだろう、人より多いが少ないか。それだけの違いだ。
だが、裁判官のいないこの世で、誰があえて俺を裁く?
だれもかれもが罪人の世界で。・・・おまえはよくわかっている。
エリコンは来てない。俺には月が手に入らない。
苦しい。本当であること、終りまで行かなければならないということ。
苦しいのは、終わるのが、完成するのが怖いからだ」
カイウス「俺は心の静まるあの大きな空虚を、もう一度見つけるんだ。
なにもかも複雑に見える。だがなにもかも単純だ。
もし俺が月を手に入れていたら、もし愛だけで充分だったら、
すべては変わっているだろう。この渇きをどこで癒せばいい。
どんな心、どんな神が、湖の深さをたたえているのか。
この世には何も、俺にみあうものは何もない。それでも、俺は知っている。
おまえもだ。不可能がありさえすればそれで充分だ。
不可能!俺はそれを世界の果てまで探しにいった、俺自身の果てまで。
俺は自分の両手を差し出した。両手を差し出す、するとおまえに会う!
いつもおまえだ、俺の前にいる。
そして俺はおまえに対して憎しみでいっぱいになる。
俺は行くべき道を行かなかった。俺は何ものにも到達しない。
俺の自由は良い自由ではない。
エリコン!エリコン!何もない!まだ何もない!夜が重い。
エリコンはもう来ない。俺たちは永遠に罪人だ。
夜は人間の苦悩のように重い」
エリコン「用心してください、カイウス!用心して・・・」
カイウス「歴史の中に入るんだ、カリギュラ!歴史の中に!」
カイウス「俺はまだ生きている!」